トラブルを防ぐ!就業規則
  
〜効果的な規定で事前にトラブルを回避しよう〜

 

 1.増える労使トラブル

 バブル崩壊後から続いている労使間の紛争(解雇、労働条件、賃金等のトラブル)の増加は、いまだとどまるところを知りません。そればかりか、一昨年後半以降の経済・雇用情勢の急速な悪化等を反映して、その増加は拡大してきています。

 年々増加する労使間の紛争に対処するために平成13年10月にはじまった「個別労働関係紛争解決制度」も、今年10月で11年を迎えます。この制度は、年々増加している個々の労働者と事業主との間の紛争について、裁判になる前に迅速に解決するための制度です。

 平成23年度の相談件数はついに111万件となり、4年連続で100万件を超えることとなりました。今後もこの増加傾向は続くものと思われます。

 最近は、手軽に読める労働法関連書籍の増加やインターネットの普及等により情報が得やすくなり、労働法に詳しい労働者が多くなっています。その結果、昔よりも労使で主張が対立することが増えているのです。また、終身雇用が崩れ会社への愛着や忠誠心が薄れていることや、生活環境の変化により働く目的が昔とは変わってきている(生活のため・豊かになるため → 嗜好・やりがい等)こともその要因と考えられます。

 訴訟等になれば、労使とも多大な労力・金を費やすことになり、まして裁判で負けた方は、さらに大きな出費、信用低下などのダメージを負うことになります。

 すべての会社において、労使トラブルに対する本格的な対策が必要となってきています。

 

  【個別労働関係紛争解決制度の運用状況について】(H23年4月〜H24年3月)

1総合労働相談コーナーに寄せられた相談 1,109,454

 

相談者の種類
労働者 659,285件  事業主 329,383件  その他 120,786件

2上記のうち民事上の個別労働紛争に係る相談の件数 256,343件

(1)

相談者の種類
労働者 206,516件 事業主 30,166件 その他 19,661件

(2)

紛争の内容
普通解雇 43,677件、整理解雇 8,061件、懲戒解雇 6,047件、退職勧奨 26,828件

労働条件の引下げ 36,849件、出向・配置転換 9,946件、採用内定取消 2,010件、

雇止め 13,675件、その他の労働条件 37,575件 自己都合退職 25,966件、

募集・採用 3,180件、雇用管理等 5,361件、いじめ・嫌がらせ 45,939件、

その他 40,010件

 

 2. 就業規則とは? 〜労使トラブルを回避するルールブック〜

 就業規則は、職場の規律を維持するとともに、その職場における労働条件を明確にし、従業員が安心して働けるようにするために作成される文書規則で、いわば会社と従業員が守るべきルールブックです。

 就業規則は、労働基準法によって、従業員を常時10人以上(パートや嘱託で継続的に雇っている人も含む)使用する事業場(複数の支店・営業所等がある会社の場合には、 各支店・営業所ごと)に作成義務が課せられています。

 どんな組織の運営にも、ルールがあります。たとえば、プロ野球などでもお互いのチームがルールを守って試合をすることで成り立っています。もしルールがなければ、とても試合にはならないでしょう。そして、そのルールは、必ず書面(ルールブック)で作成されています。そうしなければ、後から言った言わないでトラブルが起きてしまうからです。

 就業規則もそれと同じ性格をもっていて、後々会社と従業員との間でトラブルが起きないようにするためのものでもあるのです。

 ところが、作成義務のある会社でも、作成していないところがたまにあります。理由は次のようなものです。

 @就業規則を作らなくても、従業員は常識で判断してくれる。口頭で言えば済む。

 A法律で認められている労働者の権利(たとえば、年次有給休暇など)を従業員が知ってしまうと困る。

 B作成するのが面倒である。 etc.

 しかし、従業員とのトラブルが発生し、裁判などになった場合(上記のように、労使トラブルは年々増えている)には、この就業規則の内容次第で、その結果がかわってくるのです。

 また、従業員の服務規律の観点から見ても、会社にとって有利な面があります。なぜなら、就業規則は事業主が一方的に作成し、従業員に守らせることができる(もちろん法律に違反することや公序良俗に反することはダメですが..)からです。

 なお、10人未満の従業員しかいない事業場では、就業規則の作成義務はありませんが、先に述べた理由により、作成しておいたほうがよいのは言うまでもありません。

 3. 記載内容

 就業規則にどのような内容を定めるかについては、基本的にその企業・その事業場で決定する ことです。したがって、社是・社訓を掲載したり、これまでの社業の歴史的沿革を掲載すること により他社にはない独自性のあるものを作成していくとより効果的です。
 ただし、労働基準法では、労働者に労働条件を保障するという観点から、就業規則に最低限定め なければならない事項が規定されています。その内容は、必ず記載しなければならない事項
(絶対的必要記載事項) とその事業場にそのような制度、取り決めがあれば記載しなければならない事項 (相対的必要記載事項) に分けることができます。

絶対的必要記載事項

相対的必要記載事項

任意記載事項

・始業・終業時刻、休憩、休日、
 休暇、就業時転換
・賃 金
・退 職

・退職手当
・臨時の賃金、最低賃金
・労働者の食費等の負担
・安全・衛生
・職業訓練
・災害補償、私傷病扶助
・表彰、制裁
・その他労働者全員に適用されるもの

・社是・社訓
・企業史   等

 作成・変更の手続

 就業規則は会社が一方的に作成・変更してよいのですが、その際に労働者側 の意見を聞くことが義務付けられています。
 労働者側とは、その事業場における労働者の過半数で組織される労働組合があればその労働組合 のことであり、過半数労働組合がなければ、労働者の過半数を代表とする者のことを指します。 この意見には反対意見があってもかまいません。「意見を聞く」とは、労働者側の意見を聞き、 その趣旨を就業規則に反映させる機会を与えればよいということであり、
意見聴取の結果が 就業規則の内容に反映されなかったとしても、就業規則の効力にはなんら関係がない のです。
 就業規則を作成したら、次にそれを事業場を管轄する労働基準監督署へ届け出なくてはなりません。 その際には、就業規則に労働者側の意見書を添付して提出します。 その際に注意すべきことは、届け出た際に押してもらった労働基準監督署の確認印があることを もって、「労働基準監督署のお墨付き」とすることはできないということです。なぜなら、 その就業規則が受理されたとしても、労働基準監督署の立場は、労働条件の最低基準である 「労働基準法を下回る部分は無効である」ということで確認印を押しているにすぎず、その印が 内容の適法性を保証したものではないからです。
 届出が終わったら、最後に、作成した就業規則を事業場内で周知しなければなりません。 周知とは、その事業場の労働者がその内容について知りたいと思えば知ることができる状態に しておくことをいい、
労働者の目にふれないような場所に保管しておくことは周知には当たりません。 「事業場内の見やすい場所に掲示しておく」、「書面を交付する」、「パソコンで表示 できるようにしておく」等により周知することが必要です。この周知を怠ると、その就業規則は 効力を生じないことになってしまうので注意してください。

 5. 労働条件の不利益変更について

 就業規則で定められた労働条件の変更は、前述のように会社側の一方的な意思 によって実行することが可能です。
 ところが、労働契約が定める労働条件を変更するためには、契約である以上、会社と労働者との間 の合意が必要となり、ここに矛盾が生じます。

 そこで、仮に手続き上は就業規則を変更することができるとしても、 その変更の内容が労働者にとって不利益になる場合、会社が一方的に変更できるのかという問題が起きます。この点については、 最高裁判所の判例理論があり、次のような内容となっています。

@ 労働者本人の同意のない以上、一方的な不利益変更は既得権を侵害するもの
 であって無効である。
A 例外的に、その変更の内容と変更の必要性の二面から考慮して合理性が認め
 られることがある。
B 特に、賃金・退職金は重要な労働条件であり、変更に合理性が認められるため
 には、高度の必要性に基づく合理的内容であることを要する。


 そして、その「合理性」は、不利益の程度、変更後の労働条件の水準、代償措置、労働組合の 対応、他従業員の対応、他社の水準、社会通念、職場規律のための変更の必要性などにより総合的 に判断されます。


 現在、労働問題のなかで特に多いのが、解雇と労働条件の変更(切り下げ)で しょう。多くの企業が、その存続をかけて労働条件の変更、人事・賃金制度等を見直しています。 しかし、上記のような判例理論からすれば、労働者側の同意と合理性がない場合、すなわち、 その内容が
労働者にとって大きな不利益になる場合には、就業規則の変更は無効になる可能性が高い ということになります。
 私個人としては、
労働者の雇用と労働条件も、その企業の業績、経営状況によって影響を受けるのは当然であり、業績の変動に伴って労働条件にも弾力性をもたせなければ、企業倒産につながりかねないと思うのでのですが...。

 

 6. 就業規則は企業業績を左右する

 以上、就業規則の基礎知識、作成・変更時の留意点等についてみてきました。
 上記の他にも、たとえば、就業規則の規定と異なる労働慣行があるような場合のその法的拘束力はどうか、といったことや、出向・転勤命令は企業裁量権としてどこまで認められるのか、 労働時間や賃金支払の適法性はどうか、など留意点はまだまだあります。また、今後も経済社会や 雇用情勢等の変化に伴い、さまざまな法令の改正が行われていきますので、それらへの対応も忘れることはできません。 

 

 就業規則とは、従業員の労働条件や守るべきルールを明確に定めることにより、労使トラブルを未然に防ぎ、従業員のモチベーションを向上させ、ひいては 会社業績の向上を実現するための極めて重要なツールです。就業規則の規定次第で、会社の業績が左右されるといっても言いすぎではないかもしれません。

 ですから、この会社にとって非常に重要な就業規則は、必ず経営者自身が検討・作成に携わり、その会社のオリジナルを作成することをお勧めします(市販のものやネット上の雛形などをそのまま使用するのは非常に危険)。

 

 事故を起こした人がよく言います。「まさかこんな事故になるとは思わなかったので..」。

 しかし、事故というのは、常に「まさか」の状態で起こるものです。その「まさか」の発生に備え、万全の体制をとることが大切なのです。労使トラブルについても、まったく同じことが言えるのではないでしょうか。

 

 以上のようなことを念頭に、充実した就業規則の作成・見直しを実施していただきたいと思います。

 

 


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